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2019年10月18日金曜日

金髪の巨大ゴカイ ~ エウラギシカ・ギガンティア

(image credit: National Museum of Natural History, Smithsonian Institution)

■金髪の巨大ゴカイ ~ エウラギスカ・ギガンティア

今回は南極の500メートル以上の深海に生息する怪物、エウラギシカ・ギガンティア

学名からいくとエウラギスカ・ギガンティアEulagisca gigantea)と読むほうが適していると思いますが、日本では「エウラギシカ」で通っているため、ここでもその呼称に合わせます。

種小名の「ギガンティア」に恥じない巨大な体で、体長は20センチ以上、幅も10センチを超えることがある、巨大なゴカイ(多毛類)の仲間です。

― 南極深海に棲むウロコゴカイ ―


南極海という極寒の深海に棲息する生物で、「アンタークティック・スケールワーム(南極のウロコゴカイ)」とも呼ばれています。

体表を覆うウロコ状の構造はエリトラと呼ばれ、これがスケールワーム(ウロコゴカイ類)と総称される理由でもあります。

(image credit:  Roaring Earth)

― 異様な「頭部」の正体 ―


さて、まず目を引くのが異様なほど巨大な頭部ですが、実際にはこれは頭ではなく吻部(ふんぶ)、つまり「口」にあたる器官です。

そのため、この部分には当然ながら目も鼻もありません。
目はというと、本体側の背側に左右一対、控えめに配置されています。

花のつぼみに牙を無理やり取り付けたようなこの吻部を見れば、活発な肉食性の生物であることは容易に想像できます。

実際、吻部の内部には強靭な顎を備えた可動式の口器が隠されており、獲物を捕らえる際にのみ反転して外に現れます。

普段は体内に完全に収納されているため、写真のようなエイリアンめいた姿は「食事中の特殊形態」と言った方が正確です。

― プレデター、それともスカベンジャー? ―

(深海の掃除屋、ダイオウグソクムシ)
(image credit : Wikicommons (NOAA))

ただし、正直なところ自然環境下で何を主に食べているのかは、いまだ明確には分かっていません。

一説では、甲殻類や棘皮動物(ウニやヒトデ、ナマコの仲間)を捕食する積極的な捕食者(プレデター)である可能性が示唆されています。

同時に、同じゴカイ類を含む他の底生生物を襲う、場合によっては共食いすら行うのではないかという研究もあります。

一方で、深海という環境を考えれば、死骸を利用する腐肉食性(スカベンジャー)の側面も併せ持っていると考えるのが現実的でしょう。

巨大ダンゴムシことダイオウグソクムシBathynomus giganteus)と同様、見た目(の怖さ)とは裏腹に「海の掃除屋」という役割を担っていてもらわないと困る存在です。

― 普段の姿と異形のギャップ ―


吻部が引っ込んでいる通常時の姿は、アワビというか、タワシというか、やや平たい楕円形に近く、写真でよく知られる姿とは印象が大きく異なります。

そしてもうひとつ、この生物を象徴する特徴が、全身を放射状に包み込むフリル状の黄金色の足です。

これは疣足(パラポディア)と呼ばれる器官で、パドル状に発達しており、遊泳にも適した構造をしています。

この金色がかった疣足こそが、他の近縁種と区別する際の重要な識別点にもなっています。

幼体のうちは体重が軽いため、比較的活発に泳ぎ回ることができるようです。

しかし成長して大型化するにつれ遊泳能力は低下し、成体になるとほぼ完全に海底生活に移行すると考えられています。

実際、スケールワーム類全般は底生生物ですが、必要に応じて短時間の遊泳を行う能力を持っています。

ただし体が大きくなるほど長時間泳ぐことは難しく、泳ぎを止めるとゆっくりと海底へ沈んでいきます。

― 水中で見せるもう一つの顔 ―


水から揚げられた姿を見ると、ゴカイらしく毛虫的で強烈な嫌悪感を覚えるかもしれません。

しかし水中では、黄金色の疣足を波打たせながら進むその姿は、不思議なほど優雅です。

― 進化と分類の位置づけ ―


エウラギシカ・ギガンティアは、分類学的にはウロコゴカイ科Polynoidae)に属します。
この科は非常に多様性が高く、浅瀬から深海、さらには熱水噴出孔や冷湧水域といった過酷な環境にまで適応した種が知られています。

中には生物発光を行う種や、他の大型深海生物と共生関係を結ぶものもおり、エウラギシカ・ギガンティアもまた、そうした極限環境に適応した進化の一例と考えられています。

<食性について加筆 2025/06/01>
いまだ決定的な証拠はありませんが、近年の研究では、従来考えられていた以上に能動的な捕食者である可能性が指摘されています。

深海の甲殻類や棘皮動物、同属を含むゴカイ類などを対象に、状況に応じて捕食と腐肉食を使い分けているのかもしれません。

南極の闇の底で、この金髪の巨大ゴカイが何を狩り、何を見ているのか。
その生態の全容は、今もなお深海の静寂の中に隠されています。

3 件のコメント:

  1. 写真の状態はネットで見たことありますが、生きている状態は知らなかったので、見てみたいですね

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  2. 記事内にYouTubeのリンク貼っておきました。暇なときに見てください。

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  3. YouTubeのリンクありがとうございます
    背中側は石(海底?)みたいなんですね
    画像だけだとわからないものですね

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