■地球侵略計画が進んでいるのをあなたは気付いているか? ~ ミステリー・クレイフィッシュ
今回はミステリー・クレイフィッシュ(Mystery Crayfish)。
クレイフィッシュとは英語で「ザリガニ」の意味。
直訳すれば「謎のザリガニ」
いかにも陳腐で安易なUMA風の響きですが、これは比喩でも都市伝説でもありません。
実在する生物に与えられた、現時点での正式な和名です。
学名は Procambarus virginalis (旧:Procambarus fallax forma virginalis)。
分類上も、生態学上も、この生物はすでに「説明不能な存在」として扱われています。
― ミステリー・クレイフィッシュとは ―
ミステリー・クレイフィッシュは、メスしか存在しません。
オスは存在しません。
にもかかわらず、このザリガニは繁殖します。
単為生殖――
つまり、1匹で、自分と同一のクローンを産み続けることができます。
交尾は不要。
相手も不要。
孤独であることが、繁殖の妨げにならない生物です。
― 「突然変異」から生まれた存在 ―
(ミステリー・クレイフィッシュ)
(image credit: Wikicommons)
ミステリー・クレイフィッシュの起源は、1990年代にドイツの愛好家が飼育していたスロウザリガニ(Procambarus fallax)の突然変異によるものと目されています。
ゲノム解析の結果からも、飼育下で生じた単一の個体に由来することがほぼ確実視されています。
ある日、飼育していたスロウザリガニの中から異常な個体が現れたのです。
それが、すべての始まり――
この個体は、遺伝子レベルで異常を抱えていました。
染色体を2セット持つ通常のザリガニ(二倍体)ではなく、3セット持つ三倍体。
生物学的には「欠陥」とされることの多い状態です。
通常、三倍体は繁殖能力を失います。
しかしミステリー・クレイフィッシュは、そこで終わりませんでした。
― 三倍体が「武器」になった生物 ―
三倍体化によって、このザリガニの細胞は巨大化しました。
細胞が大きくなれば、体も大きくなります。
原種であるスロウザリガニの平均体長は約3.8センチ。
対してミステリー・クレイフィッシュは、平均7.4センチ。
最大では10センチを超えます。
単純に、倍近いサイズです。
だが、本当の異常はそこではありません。
抱卵数。
スロウザリガニの平均抱卵数は約40個。
ミステリー・クレイフィッシュは、平均300個。
条件が整えば、400、500、700個を超えることすらあります。
しかも、産まれてくるのはすべて自分自身のコピー。
失敗作は存在しません。
― なぜ増殖できる? ―
クローン(単為生殖)は本来、遺伝的多様性がなく「環境変化に弱い」のが生物学的な定石です。
しかし、ミステリー・クレイフィッシュがその常識を覆し、爆発的に勢力を広げている理由は、三倍体特有の「チート能力」にあります。
進化の常識を覆す3つの強み
1.「最強の設計図」を固定してコピー
誕生の瞬間に、生存に有利な遺伝子の組み合わせを3セット分(三倍体)取り込みました。
有性生殖のように世代交代で「良い遺伝子」が薄まることがなく、常に最高スペックのクローンを量産し続けます。
2.後天的な「スイッチ切り替え」能力
遺伝子の配列(DNA)は同じでも、環境に合わせて遺伝子の働きを調整する「エピジェネティクス」という仕組みが極めて強力です。
これにより、一つの設計図でありながら、異なる水温や水質に柔軟に適応できます。
3.圧倒的な「数」によるゴリ押し
原種を大きく上回る巨体と、先に挙げたように10倍前後から最大20倍以上におよぶ抱卵数を誇ります。
多少の環境変化で脱落者が出ても、一握りの生き残りが短期間で群れを再生させるため、実質的に「全滅」を回避してしまいます。
― 止まらない増殖サイクル ―
ミステリー・クレイフィッシュは、生後5~7ヶ月で繁殖可能になります。
寿命は2~5年。
その短い生涯の中で、最大7回前後の繁殖サイクルを回します。
計算するまでもありません。1匹が、数年で、何千、何万という個体数を生み出す理論が成立します。しかも、非常に丈夫。
水質の変化に強く、低酸素にも耐え、日本の気候にも適応可能。すでに沖縄県那覇市や愛媛県松山市では、野外定着が確認されています。
― なぜ「侵略者」と呼ばれるのか ―
このザリガニは、在来種を直接殺す必要がありません。数で圧倒し、餌を奪い、棲み場所を占拠する。
静かに、しかし確実に、生態系の構造そのものを書き換えていきます。その危険性から、日本はもちろん海外でも特定外来生物に指定されています。
飼育、販売、譲渡、生体の運搬、野外放流は原則すべて禁止。
違反すれば、重い罰則が科されます。
それほどまでに、この生物は「増えてはいけない存在」なのです。
― ミステリー・クレイフィッシュという異物 ―
ミステリー・クレイフィッシュは怪物ではありません。
牙も、毒も、巨大な爪もない。
ただ、増える――
止まらずに、静かに、確実に。
生物としての「制約」をいくつも踏み越えた存在。
それが、今この瞬間も、水槽から、用水路から、池へと広がっています。
地球侵略計画。
そう呼ぶのは大げさでしょうか。
この恐怖は空想ではありません。
既にマダガスカルでは、2007年に持ち込まれたわずか数匹が、僅か10年余りで島全土を埋め尽くす数百万匹の軍団へと膨れ上がりました。
かつての固有種は駆逐され、今や市場のバケツを埋め尽くしているのは、たった一個体の『コピー』たちです。
日本はそんなことにならない――
そう断言できる根拠はどこにもありません。
すでに彼らは、あなたの足元の用水路で、音も立てずに「自分自身」を増やし続けているのですから。
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