■オンタリオ湖のレイク・サーペント ~ レイク・オンタリオ・サーペント(セクション3)
セクション2の続き。
― マスキーなら「巨大な蛇」に見える? ―
もう一つの候補が、マスケランジ(Esox masquinongy)、通称「マスキー」です。
北米を代表する大型の肉食魚で、現地のアングラーの間では、キャベツ・ドラゴン(Cabbage Dragon)という実際の愛称で呼ばれることもあります。
ここでいう「キャベツ」とは、マスキー釣りの好ポイントとなる、水中に広がる大型の水草帯のことです。
マスキーはこうした水草の茂みに身を潜め、獲物を待ち伏せします。
そこから突然現れる大型個体の姿が、まるで水草のジャングルに潜む「ドラゴン」のように見えることから、アングラーたちの間で「キャベツ・ドラゴン」と呼ばれるようになったといわれています。
そして、マスキーそのものも、かなり奇妙な姿をしています。
細長いカマス型の魚体は、大型個体になると1.8メートル近くに達します。
しかも非常に獰猛な肉食魚で、水面近くを素早く泳ぎ、ときには水面から飛び出すこともあります。
そのため、遠くから一瞬だけ目撃した場合には、細長い魚体が水面を走る姿を「巨大な蛇」と認識してしまう可能性があります。
特に、水草の間から突然姿を現し、長い魚体をくねらせながら水面を移動すれば、通常の魚とはかなり違った印象を与えるでしょう。
ただし、こちらも最大の問題はサイズです。
1.8メートル級のマスキーは十分に巨大ですが、9~10メートルというサーペントの目撃証言とは到底釣り合いません。
したがって、マスキー単独でレイク・オンタリオ・サーペントのすべてを説明するのは難しそうです。
それでも、「水面を素早く移動する細長い大型生物」という目撃証言の一部については、ミズウミチョウザメとはまた違った形で説明できる候補ではあります。
― 「1匹の怪物」ではなかった可能性 ―
(オッター・チェーン)
もう一つ面白いのが、カナダカワウソ(Lontra canadensis)の集団です。
カワウソは複数の個体が縦一列になって泳ぐことがあり、先頭から順番に水面へ現れたり沈んだりする姿は、遠くから見ると1匹の長大な生物が水面をうねっているように見えることがあります。
いわゆる「オッター・チェーン(otter chain)」と呼ばれる現象です(オッターとはカワウソの英名です)。
ネス湖のネッシーなどでも、巨大水棲獣の錯視を説明する候補として挙げられてきました。
レイク・オンタリオ・サーペントの目撃談にある「背中がいくつものコブになっている」「波打ちながら進む」という描写だけを見れば、確かに面白い候補です。
しかし、これにも限界があります。
港のドックや岸辺から比較的近距離で見たという証言や、「巨大なアナコンダのようだった」という2019年の報告まで、すべてをカワウソの集団で説明するのは無理があります。
遠距離の目撃には有効でも、近距離の証言には弱い。
このあたりが、未確認生物の正体を一つに決められない難しさでもあります。
― 海からやって来た巨大ウナギ? ―
そして、オンタリオ湖ならではの変わった候補もあります。
それがアメリカウナギ(Anguilla rostrata)です。
オンタリオ湖は五大湖の最下流に位置し、セントローレンス川を通じて大西洋へと繋がっています。
つまり、完全に閉ざされた内陸湖ではありません。
アメリカウナギは海と河川を行き来する回遊魚ですから、「海から巨大なウナギが入り込んだのではないか」という発想そのものは、UMAとしてはかなり魅力的です。
もっとも、通常のアメリカウナギを9メートル級のシーサーペントへ拡大する根拠はありません。
まして「巨大化した個体」が存在するという証拠もありません。
そのため、これは科学的な有力説というより、オンタリオ湖が大西洋と水路で繋がっているという地理的条件から生まれる、ロマンのある仮説と考えたほうがいいでしょう。
― では、9メートルの怪物はどこへ消えたのか ―
こうして見ていくと、レイク・オンタリオ・サーペントの正体として最も現実的なのは、やはりミズウミチョウザメを中心とした既知の大型生物でしょう。
特に「黒っぽい巨大な魚体」「水面から突き出す背中」「背中のコブ」「奇妙な光沢」という特徴は、かなり興味深い一致を見せています。
一方で、9~10メートルというサイズだけは、どうしても説明できません。
ここが最大のポイントです。
仮に9メートル級の未知の脊椎動物がオンタリオ湖に生息しているのなら、これだけ巨大な動物が長期間にわたって繁殖し続けるためには、相当数の個体が必要になります。
そして、そのような動物が存在するなら、死骸や骨、DNA、明確な映像など、何らかの物的証拠が残っていても不思議ではありません。
ところが、現在まで決定的な証拠は確認されていません。
さらに1934年の有名な集団目撃事件が、後年になって学生による仕掛けだったと判明していることも無視できません。
「巨大な水棲獣を見た」という証言のすべてが捏造だったとは限りませんが、少なくとも有名な目撃談の中に人為的なものが存在したことは確かです。
それでも、すべてを「見間違い」や「いたずら」で片付けてしまうのも少し乱暴でしょう。
オンタリオ湖には実際に2メートルを超える巨大魚が生息し、暗く深い水域も存在します。
しかも、トロントのような巨大都市の目の前にありながら、その全域を人間が常時監視しているわけではありません。
つまり、
「巨大な怪物はいない」
ことと、
「巨大な生物を怪物と見間違えることがある」
ことは、まったく別の話です。
レイク・オンタリオ・サーペントの正体は、結局のところ、まだなにも分かっていません。
ただ、これまでに残された目撃証言を一つずつ見ていくと、必ずしも「未知の巨大生物」を想定する必要はなさそうです。
巨大なミズウミチョウザメやマスキー、水面を泳ぐカワウソの群れ、波や浮遊物、遠近感による錯視。
そうしたものが複雑に重なれば、巨大な蛇や水棲獣を見たという証言が生まれることは十分に考えられます。
そして、実際に有名な集団目撃事件のひとつが、後になって人為的な仕掛けだったと判明していることも、この怪物のイメージが「目撃されたもの」だけで作られたわけではないことを示しています。
それでも、すべての目撃談を見間違いやいたずらだけで片付けられるわけではありません。
オンタリオ湖には、2メートルを超える巨大な魚が実際に生息しています。
水深は240メートルを超え、その深部を含めた湖全体を、人間が常に監視しているわけでもありません。
だからといって、そこに9メートルの未知生物が潜んでいるという証拠にはなりません。
ただ、「まだ説明できていない目撃証言が残っている」という事実まで消えるわけでもないのです。
もしかするとレイク・オンタリオ・サーペントとは、巨大な未知生物の名前ではなく、人間が巨大な湖を見たときに生まれる「何か分からないもの」の名前なのかもしれません。
魚だったのか。
波だったのか。
群れだったのか。
あるいは、そのどれでもなかったのか。
湖面を見つめる人間には、その瞬間に何が水面下を通り過ぎたのか、確かめる術がありません。
そして、巨大な湖という場所には、今もその程度の分からなさが残されています。
まあ、分からないからこそ、私たちは今も水面を見つめてしまうのですが。
UMA探しの旅は終わらない (国内外1000体以上のUMAが待っています)
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