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2019年9月28日土曜日

DNAでも正体不明だったオオカミ ~ アンデスオオカミ


■誰も知らないアンデスオオカミ

今回は誰も知らないアンデスオオカミ(Andean wolf)。

アンデスオオカミとは、かつて南米に生息していたのではないかといわれる大型のオオカミです。

その存在をめぐっては、1枚の毛皮と巨大な頭骨が残されています。

1927年、ドイツ人動物商であるローレンツ・ハーゲンベック(Lorenz Hagenbeck)氏が、アルゼンチンのブエノスアイレスで1枚の毛皮を手に入れたことに端を発します。

その毛皮は見慣れないもので、それを売っていた毛皮商人は、この毛皮はチリのアンデスに生息しているオオカミのものだと主張していました。

それから10年以上経った1940年、この謎の毛皮の鑑定を請け負ったドイツ人、インゴ・クルムビーゲル(Dr. Ingo Krumbiegel)博士は、鑑定の結果、これは新種の動物であると結論付けました。

その後、クルムビーゲル博士は、自らのコレクションにアンデス産の謎の頭骨を発見したことから、ハーゲンベック氏が手に入れたこの謎の毛皮と結びつけ、再度の鑑定を行いました。

― 巨大な頭骨 ―

(タテガミオオカミ)
(image credit: Wikicommons)

頭骨は非常に大きく31センチにも及び、南米に生息するタテガミオオカミ(Chrysocyon brachyurus)のもの(約24センチ)より遥かに大きなものでした。

クルムビーゲル博士はこの頭骨と毛皮を結びつけ、未知の大型オオカミではないかと考えました。

しかし、その後、第二次世界大戦の戦火によって、頭骨そのものは失われてしまいます。

幸い、調査時の記録が残されていたため、クルムビーゲル博士はそれらをもとに1949年、この謎の毛皮と謎の頭骨を「アンデスオオカミ(Andean wolf)」として学会で発表し、その学名をドゥシキオン・ハーゲンベッキ(Dusicyon hagenbecki)としました。

種小名の hagenbecki はもちろん毛皮を手に入れた動物商、ハーゲンベック氏のことで、彼に敬意をあらわし献名したのです。

― 毛皮は本物だったのか ―


しかし、1960年代、毛皮を鑑定した別の科学者は、その毛皮にシェパードの特徴を見つけ、アンデスオオカミなどもともと存在していなかったと発表します。

ここで、さらに奇妙な疑問が生まれます。

クルムビーゲル博士が新種の根拠としたのは、巨大な頭骨と謎の毛皮でした。

しかし、その毛皮は大型のシェパードを思わせるものであり、一方の頭骨はタテガミオオカミに似ているものの、それよりもはるかに大型でした。

そもそも、この毛皮と頭骨は本当に同じ動物のものだったのでしょうか。

別々の動物の皮や骨が何らかの経緯で組み合わされ、それが「アンデスオオカミ」という一つの動物として扱われてしまった可能性も考えられています。

そうなると、巨大な頭骨も、謎の毛皮も、それぞれ単独では存在していたのかもしれません。

ただ、それらが同じ一頭のオオカミだったのかどうかは、もう分かりません。

そして、現代の科学がこの謎に決着をつける機会も訪れます。

― DNAでも分からなかった ―


DNA鑑定の進歩著しい現代において、残された毛皮から種の特定を試みました。

2000年、ミュンヘン動物学博物館に残されていたこの毛皮からDNAを抽出し、正体を突き止めようとしたのです。

しかし、結果は思わしいものではありませんでした。

毛皮は過去の化学処理や長年の保管などによって状態が悪く、さらに人間やイヌ、オオカミ、ブタなど、複数の生物に由来するとみられるDNAが混入していました。

現代のDNA技術をもってしても、そこからアンデスオオカミが何者だったのかを特定することはできなかったのです。

これで、残された最大の手がかりだった毛皮さえ、決定的な証拠とはならなくなりました。

そして、もう一つの証拠である頭骨にも、取り返しのつかない問題がありました。

大戦の最中、謎の頭骨は失われてしまったのです。

毛皮は残った。

頭骨も、かつては存在した。

科学者たちはそれぞれを調べ、新種なのか、既知の動物なのか、そもそも同じ動物のものなのかを考えました。

そして現代にはDNA鑑定まで登場しました。

それでも、アンデスオオカミが実際にどんな動物だったのかは分かりません。

― 誰も知らない…… ―


1枚の毛皮が残りました。
巨大な頭骨もありました。

科学者たちはそれを調べ、新種として発表し、その存在を疑いました。現代になってからは、DNAによる鑑定も試みられました。

しかし、これだけの調査を重ねても、その正体を突き止めることはできませんでした。

あの毛皮は何だったのか。
あの頭骨は何だったのか。
そして、本当にアンデスオオカミは存在したのか。

証拠は残っています。
しかし、答えは残っていません。

これだけの証拠を残しながら、その正体だけは今も分かりません。

誰も知らないアンデスオオカミ――

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