■謎の暗号 ~ ヨーグツェ(YOG'TZE)事件
今回は、ドイツ未解決事件史の中でも、最も有名なヨーグツェ(YOG'TZE)事件を見ていきましょう。
― 予兆 ―
1984年10月25日。
西ドイツ、ハイガー。
食品技師ギュンター・シュトル(当時34歳)は、数日前から奇妙な言動を繰り返していました。
「奴らが来る」
「狙われている」
彼は、具体的な名前も理由も語りません。
ただ、見えない何かに追われているという確信だけを、妻に訴え続けていました。
彼が日々扱っていたのは、ヨーグルトの粘度や発酵温度といった、冷たく極めて現実的な数字の世界です。
その理数系の頭脳が、根拠のない恐怖に侵食されていく。
その落差こそが、周囲の不安を煽りました。
― 「閃いた」瞬間 ―
事件当夜、午後11時頃。
シュトルは突然、椅子から立ち上がります。
「すべて分かった!(Jetzt geht mir ein Licht auf!)」
そう叫び、彼は手近な紙切れに、6文字を書き残しました。
YOG'TZE
直後、その文字列を線で消し、彼は家を飛び出します。
この瞬間が、彼の人生最後の「理解」でした。
熟練の技術者が、論理の果てに辿り着いた答え。
しかしそれは、言語ですらない、不気味な「記号」でした。
― 空白の夜 ―
彼が向かったのは、行きつけのパブ「パピヨン」。
ビールを1杯注文しますが、一口も飲まず、床に倒れ込みます。
顔に怪我を負いながらも、彼は「一瞬、気を失っただけだ」と言い、深夜1時頃、再び車に乗りました。
その後、実家近くの老婦人宅を訪ねます。
「今夜、とんでもない事件が起きる」
そう言い残し、追い返されるように去っていきました。
― 全裸の助手席 ―
午前3時頃。
アウトバーンA45号線。
溝に落ちたフォルクスワーゲン・ゴルフが発見されます。
車内の助手席には、全裸のシュトルがいました。
冬に近い10月の深夜。
吹き曝しのアウトバーン。
服を剥ぎ取られ、冷たい助手席に押し込められた肉体。
まだ、かろうじて意識のあった彼は、トラック運転手にこう尋ねました。
「一緒にいた4人の男たちはどこだ?」
搬送途中、彼は死亡します。
― 物理法則の破綻 ―
検視結果は、事件をさらに歪めました。
シュトルの致命傷は、この事故によるものではありません。
彼は、別の場所で、別の車に轢かれていたのです。
つまり。
全裸で轢かれ、致命傷を負った彼は、
誰かによって自分の車の助手席に乗せられ、
100km以上離れた高速道路まで運ばれた。
犯人の目的も、意味も見当たりません。
ただ、全裸の彼を乗せて疾走したその距離のあいだ、
犯人は、死にゆくシュトルと、どのような「時間」を共有していたのでしょうか。
― YOG'TZEという「言葉未満」 ―
残されたのは、あの謎の6文字――
YOG'TZE
意味を持たない。
文脈に収まらない。
解釈しようとした瞬間、形を失う文字列。
彼は「分かった」と言いました。
しかし、その理解は、他者に共有される前に消えました。
そして、最も不都合な可能性が残ります。
そもそも、その文字列自体が、実在しなかったのではないかという疑いです。
このメモの現物は、どこにも残されていません。
事件から半年後に、
「そういえば夫はあの日、こんな文字を書いていた」
と思い出した妻の証言だけが、唯一の根拠なのです。
耐えがたい空白を埋めるために、遺された者の脳が作り出した「偽の記憶」。
もしそうだとしたら、この暗号を解こうとする行為そのものが、巨大な空虚に触れ続ける儀式なのかもしれません。
― 真相は闇の中 ―
この事件は、正体不明ではありません。
人も、車も、傷も、すべて実在しています。
それでも、理解できない。
理由はひとつ。
事実同士が、互いを否定し合っているからです。
論理を積み上げるほど、全体が崩れていく。
「すべて分かった!」
彼が解いた謎は、一体何だったのでしょうか。
あるいは、彼に「分からせた」何者かが、
今もどこかで、次の「閃き」を誰かに与えているのかもしれません。
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