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2026年2月10日火曜日

1984年の未解決事件 / 謎の暗号 ~ ヨーグツェ(YOG'TZE)事件


■謎の暗号 ~ ヨーグツェ(YOG'TZE)事件

今回は、ドイツ未解決事件史の中でも、最も有名なヨーグツェ(YOG'TZE)事件を見ていきましょう。

― 予兆 ―


1984年10月25日。

西ドイツ、ハイガー。

食品技師ギュンター・シュトル(当時34歳)は、数日前から奇妙な言動を繰り返していました。

「奴らが来る」

「狙われている」

彼は、具体的な名前も理由も語りません。

ただ、見えない何かに追われているという確信だけを、妻に訴え続けていました。

彼が日々扱っていたのは、ヨーグルトの粘度や発酵温度といった、冷たく極めて現実的な数字の世界です。

その理数系の頭脳が、根拠のない恐怖に侵食されていく。

その落差こそが、周囲の不安を煽りました。

― 「閃いた」瞬間 ―


事件当夜、午後11時頃。

シュトルは突然、椅子から立ち上がります。

「すべて分かった!(Jetzt geht mir ein Licht auf!)」

そう叫び、彼は手近な紙切れに、6文字を書き残しました。

YOG'TZE


直後、その文字列を線で消し、彼は家を飛び出します。

この瞬間が、彼の人生最後の「理解」でした。

熟練の技術者が、論理の果てに辿り着いた答え。

しかしそれは、言語ですらない、不気味な「記号」でした。

― 空白の夜 ―


彼が向かったのは、行きつけのパブ「パピヨン」。

ビールを1杯注文しますが、一口も飲まず、床に倒れ込みます。

顔に怪我を負いながらも、彼は「一瞬、気を失っただけだ」と言い、深夜1時頃、再び車に乗りました。

その後、実家近くの老婦人宅を訪ねます。

「今夜、とんでもない事件が起きる」

そう言い残し、追い返されるように去っていきました。

― 全裸の助手席 ―


午前3時頃。

アウトバーンA45号線。

溝に落ちたフォルクスワーゲン・ゴルフが発見されます。

車内の助手席には、全裸のシュトルがいました。

冬に近い10月の深夜。

吹き曝しのアウトバーン。

服を剥ぎ取られ、冷たい助手席に押し込められた肉体。

まだ、かろうじて意識のあった彼は、トラック運転手にこう尋ねました。

「一緒にいた4人の男たちはどこだ?」

搬送途中、彼は死亡します。

― 物理法則の破綻 ―


検視結果は、事件をさらに歪めました。

シュトルの致命傷は、この事故によるものではありません。

彼は、別の場所で、別の車に轢かれていたのです。

つまり。

全裸で轢かれ、致命傷を負った彼は、

誰かによって自分の車の助手席に乗せられ、

100km以上離れた高速道路まで運ばれた。

犯人の目的も、意味も見当たりません。

ただ、全裸の彼を乗せて疾走したその距離のあいだ、

犯人は、死にゆくシュトルと、どのような「時間」を共有していたのでしょうか。

― YOG'TZEという「言葉未満」 ―


残されたのは、あの謎の6文字――

YOG'TZE

意味を持たない。

文脈に収まらない。

解釈しようとした瞬間、形を失う文字列。

彼は「分かった」と言いました。

しかし、その理解は、他者に共有される前に消えました。

そして、最も不都合な可能性が残ります。

そもそも、その文字列自体が、実在しなかったのではないかという疑いです。

このメモの現物は、どこにも残されていません。

事件から半年後に、

「そういえば夫はあの日、こんな文字を書いていた」

と思い出した妻の証言だけが、唯一の根拠なのです。

耐えがたい空白を埋めるために、遺された者の脳が作り出した「偽の記憶」。

もしそうだとしたら、この暗号を解こうとする行為そのものが、巨大な空虚に触れ続ける儀式なのかもしれません。

― 真相は闇の中 ―


この事件は、正体不明ではありません。

人も、車も、傷も、すべて実在しています。

それでも、理解できない。

理由はひとつ。

事実同士が、互いを否定し合っているからです。

論理を積み上げるほど、全体が崩れていく。

「すべて分かった!」


彼が解いた謎は、一体何だったのでしょうか。

あるいは、彼に「分からせた」何者かが、

今もどこかで、次の「閃き」を誰かに与えているのかもしれません。

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