■不治の病に侵されることで大ジャンプ能力を授かるカエルたち
今回はパラサイト系、といっても寄生虫に焦点を当てるわけではなく、パラサイトされた側の話。
生息地の破壊とカエルツボカビ (Batrachochytrium dendrobatidis)、サンショウウオツボカビ (Batrachochytrium salamandrivorans) の蔓延で先行きの暗い両生類たち。
オーストラリア南東部の高山湿地に暮らす小型種、ベローアマガエル (Litoria verreauxii alpina)。
このカエルもまた、世界の両生類を大量死させてきた真菌、カエルツボカビによって絶滅寸前に追い込まれています。
ツボカビは皮膚の機能を奪い、最終的には心臓麻痺で死に至らせる――はずでした。
しかしメルボルン大学の研究は、感染した個体に不可解な変化が起きていることを示しました。
ツボカビに侵されたカエルほど、未感染個体より23%も遠くへ跳ぶ。
死に向かう生き物が、なぜか「スーパージャンプ能力」を発揮していたのです。
― 病んでも動き続けるカエル ―
研究チームは成体60匹を「感染」と「未感染」に分け、6週間追跡しました。
測定したのは ジャンプ力・温度耐性・体重 の3つ。
結果は常識を裏切るものでした。
・跳躍距離:感染個体が23.8%増
・耐寒・耐熱性:変化なし(−3.5℃〜36℃)
・体重:差なし
衰弱どころか、跳躍性能に関しては健康なカエルたちより「異常に」向上していたのです。
さらに感染個体では、メスのほうがオスより約15パーセント遠く跳ぶことも判明。
卵を抱えるメスは、死ぬ前に産卵場所へ到達するため、より強い「最後の跳躍」が必要なのかもしれません。
― 終末期の繁殖戦略か、菌の策略か ―
この奇妙な「死の間際のスーパージャンプ」には、2つの説明が考えられています。
1.終末期の繁殖戦略(ターミナル・インベストメント)
生き物は死期が迫ると、生存より繁殖を優先することがあります。
アルプスアマガエルもツボカビ感染で未来が閉ざされた瞬間、「長く生きる」より「繁殖相手を探すために跳ぶ」ことへステータスを全振りした可能性があります。
実際、別研究では 感染オスの交尾回数が31%増と報告されています。
2.病原体の行動操作説
もうひとつは、菌が宿主の行動を操っているという説。
よく動き、よく跳ぶカエルは、多くの個体や水辺に接触しツボカビを広範囲にばらまく「運び屋」になります。
つまり「死のジャンプ」は、カエルの最期の繁殖努力であると同時に、真菌にとって理想の拡散ルートとも考えられます。
― 死ぬほど跳ぶカエルのゆくえ ―
生息域の80%以上を失い、いまも絶滅の縁をさまようアルプスアマガエル。
それでも彼らは、ツボカビとともに生き残るための「落としどころ」を探しているようにも見えます。
死が迫るほど、より遠くへ跳ぶ。
それはカエルの逆襲か? それとも病原菌の策略か?
今後の調査がカエルと真菌の奇妙な共進化の答えを導き出してくれるかもしれません。
[出典]
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