■ニューヨーク下水道のアルビノワニ伝説
今回はニューヨーク下水道のワニ(Sewer Gators)。
アメリカを代表するクラシックな都市伝説のひとつです。
ニューヨークの地下には、視力を失った巨大なアルビノワニが無数に生息している──そんな噂は、今なお世界中で語り継がれています。
― 下水道にワニがいる? ―
ニューヨークの下水道には巨大なワニの群れが暮らしているといいます。
彼らは地下という暗闇の世界で何世代にもわたって繁殖を続けた結果、目は退化してほとんど見えなくなり、体色も失って真っ白なアルビノになったといわれています。
その代わりに聴覚や嗅覚は鋭く発達し、ネズミや下水に流れ込む動物の死骸を食べながら生き延びているというのです。
中には、完全にニッチを独占した彼らは、地上のワニよりもはるかに巨大に成長したという話まであります。
― 伝説の始まり ―
(アルビノのアメリカワニ(Alligator mississippiensis))
(image credit: Wikicommons)
この都市伝説の発端となったのは、1935年2月10日に『ニューヨーク・タイムズ』が報じた実際のニュースでした。
雪合戦をしていた少年たちが、マンハッタンのイーストハーレムにあるマンホールの中で暴れる1頭のワニを発見したのです。
16歳のサルバトーレ・コンドルッチらはロープを使ってワニを引き上げましたが、暴れたためシャベルで仕留めることになりました。
そのワニは全長約2.4メートル、体重約57キログラムもあり、地元では大きな話題となりました。
この事件から、「下水道には他にもワニがいるのではないか」という噂が広まっていきます。
― なぜワニが下水道に? ―
やがて人々は、もっともらしい理由を語り始めます。
当時、フロリダ旅行のお土産として子ワニを持ち帰り、ペットとして飼うことが流行していたというのです。
しかしワニは驚くほど成長が早く、手に負えなくなった飼い主がトイレへ流したり、下水道へ捨てたりするようになりました。
生き残ったワニたちは地下で繁殖し、やがてニューヨークの地下世界を支配する存在になった――。
これが現在まで語り継がれる「下水道ワニ伝説」の基本形です。
― 時代とともに進化した伝説 ―
この都市伝説は時代ごとにさまざまな設定が加えられていきました。
1970~80年代には、地下へ不法投棄された化学物質によってワニが突然変異したという説が登場します。
また、地下に暮らすホームレスや秘密組織が番犬代わりに巨大ワニを飼育しているという陰謀論や、下水道だけで独自の進化を遂げた「地下生態系の支配者」というSF的な設定まで生まれました。
こうした派生設定は映画やコミック、小説にもたびたび登場し、都市伝説としての人気をさらに高めていきます。
― 本当に繁殖できるのか ―
現在では、この伝説はほぼ否定されています。
ワニは変温動物であり、活動には約26~32℃ほどの暖かい環境が必要です。
一方、ニューヨークの下水道は冬になると著しく気温が下がり、ワニが長期間生きられるにはあまりに過酷な環境です。
さらに下水にはサルモネラ菌や大腸菌など多くの病原菌が存在し、野生のワニが繁殖できる可能性は極めて低いと考えられています。
実際、ニューヨーク市環境保護局も「下水道内でワニが繁殖している事実はない」と公式に否定しています。
― それでも語り継がれる理由 ―
興味深いことに、下水道でワニが発見される事件そのものは、その後も時折発生しています。
2010年にはニューヨーク市クイーンズ地区の下水道で体長約60センチの子ワニが保護され、ニュースとなりました。
もっとも、こうした個体はいずれも誰かが捨てたペットと考えられており、繁殖していた証拠は見つかっていません。
それでも「地下には巨大な白いワニが潜んでいる」という物語は、人々の想像力を刺激し続けています。
実際の事件をきっかけに生まれ、何十年もの間に少しずつ肉付けされて完成したこの伝説は、アメリカを代表する都市伝説の傑作として、今もなお語り継がれているのです。
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