■淡水生リュウグウノツカイ!? ~ ビッグ・パイン・レイク・モンスター
今回はビッグ・パイン・レイク・モンスター(Big Pine Lake monster)。
アメリカ・ミネソタ州パイン郡のビッグ・パイン・レイクに伝わる、水棲UMA(レイク・モンスター)です。
その姿は、20フィート(約6メートル)を超える巨大なヘビ、あるいは巨大なウナギのような姿だったといわれています。
― ビッグ・パイン・レイク ―
ビッグ・パイン・レイク(Big Pine Lake)は、アメリカ・ミネソタ州パイン郡にある湖です。
1800年代末から1900年代初頭にかけて、この湖では「水面すれすれを泳ぐ巨大なヘビのような生物」の目撃談が、開拓者たちの間で語られるようになりました。
目撃された生物は決して陸上へ上がることはなく、水面のすぐ下を低く這うように移動していたといいます。
当時の記録には、この怪物を目撃したのが「日曜の朝に教会から帰る途中の真面目な開拓者だったのか、それとも土曜の夜に酒を飲みながら男同士で馬鹿話をしていた若者だったのか分からない」といった、やや皮肉めいた記述も残されています。
つまり、その当時からすでに「本当に怪物なのか?」という疑いの目も向けられていたわけです。
それでも、目撃談そのものは消えることなく、パイン・レイクの怪物伝説として受け継がれていきました。
― 写真の生物 ―
(ビッグ・パイン・レイク・モンスターの写真)
パイン・レイク・モンスターのものといわれている有名なモノクロ写真を見ると、解像度は低いものの、極端に側扁(そくへん)し、非常に体の長い生物が写っているように見えます。
これほど細長く、まさに「側扁」の言葉通りに体が左右に薄くなった生物といえば、まず思い浮かぶのがリュウグウノツカイ(Regalecus russellii)です。
しかし、リュウグウノツカイは深海魚です。
ごく稀に生きた状態で海岸近くに現れることはありますが、パイン・レイクは海から1000キロ以上も内陸にあります。
当然、海からリュウグウノツカイが誤って遡上できるような距離ではありません。
しかも、リュウグウノツカイだけの問題ではありません。
リュウグウノツカイ科を含むアカマンボウ目 (Lampriformes)の魚類は、すべて海水魚です。
つまり、写真の生物がリュウグウノツカイに似ているというだけでなく、それが淡水湖に生息しているとなれば、既知の魚類の生態から大きく外れることになります。
となると、もしこの写真が本当にパイン・レイクで撮影されたものなら、そこに存在するのは――
淡水生のリュウグウノツカイ。
それはUMAどころか、世紀の大発見です。
しかし――
― 疑惑の写真 ―
実は、この写真はリュウグウノツカイに「似ている」のではありません。
リュウグウノツカイそのものなのです。
この写真の正確な撮影日時については不明ですが、写っているのはカリフォルニア州の海岸に打ち上げられたリュウグウノツカイの死骸であることが分かっています。
つまり、海岸で撮影された深海魚の写真が、いつしかミネソタ州の湖に棲む怪物の写真として扱われるようになったのです。
1910年頃、パイン郡の住民がこの写真をどこからか入手し、当時すでに地元で噂されていた「20フィート以上の巨大な蛇のような生物」という伝説と結びつけ、「これがビッグ・パイン・レイクのモンスターだ」と紹介したものと考えられています。
当時は現在のようにインターネットで画像の出典を簡単に確認できる時代ではありません。
遠く離れたカリフォルニアの海岸で撮影された写真が、ミネソタの湖の怪物として流通してしまったとしても、それほど不思議ではなかったでしょう。
この写真は、地元の郷土史家ジム・コーデス(Jim Cordes)氏が地域の歴史や伝承の記録としてまとめたコレクション(「Pine County and its Memories」等)にも含まれており、のちにパイン・レイクの怪獣伝説を扱った別の書籍の表紙を飾ったこともあります。
こうして「怪物の写真」は、長い間パイン・レイク・モンスターの象徴として扱われることになりました。
― 湖面に現れた怪物 ―
しかし、写真の正体がリュウグウノツカイだったからといって、ビッグ・パイン・レイク・モンスターの伝説そのものが消えてしまったわけではありません。
この怪物には、写真とは別に複数の目撃証言が残されています。
1941年にも水面に巨大な蛇のような生物が現れたという報告があり、さらに1967年には、印象的な目撃事件が記録されています。
湖畔にいた地元の女性が、水面から約3フィート(約90センチ)も首を持ち上げた巨大な生物を目撃したというのです。
生物はそのまま潜ることもなく、じっと女性の方を見つめていたといいます。
こうした目撃談は1960年代後半から1970年代にかけても語られ、湖の怪物伝説は写真の正体とは別に受け継がれていきました。
― 怪物の正体は巨大ウナギ? ―
(シロチョウザメ)
(image credit: Seymour Levy via USFWS / Public Domain)
では、実際に目撃されていたものは何だったのでしょうか。
正体を考えるうえで候補となるのが、巨大なウナギです。
ウナギは細長い体をくねらせながら泳ぐため、水面近くを遠くから目撃すれば、巨大なヘビのように見える可能性があります。
ビッグ・パイン・レイク・モンスターが目撃されたのは淡水湖ですから、生息環境という点でもウナギは候補に挙げられます。
しかし、目撃証言どおりの大きさだったとすれば、話は別です。
北米に生息するアメリカウナギ(Anguilla rostrata)も、成長してもせいぜい1メートル台。6メートルというサイズは、通常のウナギの範囲を大きく超えています。
それでも、細長い体とヘビのような動きという特徴に注目するなら、深海魚のリュウグウノツカイよりも、巨大ウナギのほうが現実的な候補といえるでしょう。
また形状は異なりますが、湖の巨大生物としてはミズウミチョウザメ(Acipenser fulvescens)も候補として押さえておきたいところです。
実は、このパイン・レイクの伝説を扱った海外の文献でも、湖の怪物の正体としてチョウザメが挙げられており、過去に別の湖で「25フィート(約7.5メートル)もの巨大なミズウミチョウザメ」が発見されたという驚くべき逸話が紹介されています。
ただ生物学的に見ると、地元のミズウミチョウザメは大きく育ってもせいぜい2メートル強(7フィート台)が限界です。
おそらく、最大で6メートル級に達する北米西海岸のシロチョウザメ(Acipenser transmontanus)や、カスピ海のオオチョウザメ(Huso属)といった他種の巨大な記録が、調査や執筆の段階でミズウミチョウザメのデータと混入してしまったのでしょう。
25フィートという数字にはそうしたデータの混同や目撃者の誇張が含まれている可能性が高いですが、湖の「正体不明の巨大な魚影」の正体として、チョウザメというチョイス自体は非常に現実的な候補といえます。
― 写真は偽物、怪物は? ―
ビッグ・パイン・レイク・モンスターを語るうえで面白いのは、怪物の写真が偽物だったからといって、目撃証言まで偽物になるわけではないという点です。
ネス湖の怪獣でも、最も有名な「外科医の写真」が捏造だったことが判明しています。
しかし、写真の正体が判明しても、ネッシーの目撃談そのものが消えたわけではありません。
パイン・レイク・モンスターも同じです。
少なくとも、現在知られている有名な写真に写っていたのは、湖の怪物ではなく、カリフォルニアの海岸に打ち上げられたリュウグウノツカイでした。
ところが、写真が怪物の正体を明かしたはずなのに、今度は別の疑問が残ります。
写真とは無関係に目撃されていた「ビッグ・パイン・レイク・モンスター」は、いったい何だったのでしょうか。
巨大なウナギだったのか、それとも水面を泳ぐ別の生き物を、目撃者が見間違えたのか。
あるいは、長年語り継がれてきた怪物のイメージが、いつしか人々の目撃談にも影響を与えていたのかもしれません。
少なくとも、「あの」写真の主役は、はるばる海からミネソタまで泳いできたわけではなかったようですが……
(参照サイト)





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