■氷の湖に潜む赤き怪獣 ~ カタネス湖の怪物
今回はカタネス湖の怪物(Katanes Lake Monster)。
アイスランド西岸、クジラ湾と呼ばれるフィヨルドの近くにある深く冷たい湖で、19世紀後半、奇妙な獣が繰り返し姿を現しました。
― 牧草地に現れた「犬ほどの怪物」 ―
最初の記録は1874年。
湖畔の荒涼としたヒースで羊を放っていた羊飼いたちの前に、湖から這い出るようにして一匹の獣が現れました。体長は大型犬ほど。湿った体を揺らしながら地面を小走りに進み、羊の群れを散らします。
驚いた羊飼いたちが石を投げつけると、その生き物は振り返ることなく湖へと退き、水中へと消えました。
翌年、再び出現。
今度は子牛ほどの大きさに成長していたといいます。輪郭はより厚みを増し、目つきは険しく、明らかに前年よりも「野性」を帯びていました。
人が近づくと、大岩の上から跳ねるようにして湖へ飛び込み、黒い水面に飲み込まれました。
そしてさらに翌年。
事態は決定的になります。
2頭の羊が殺され、半ば食い荒らされた状態で見つかったのです。
― 牛ほどの巨体、赤い皮膚と6本の鉤爪 ―
この年、多くの目撃者がいました。
証言によれば、その怪物は牡牛ほどの巨体。皮膚は赤みを帯び、口はワニのように長く裂け、だらりと垂れた耳は猟犬ビーグルを思わせたといいます。
さらに異様なのは足。
それぞれの足に6本の鋭い鉤爪が生え、岩場を掴むように動いていたといいます。
哺乳類とも爬虫類ともつかない混合的な姿。寒冷な火山岩の湖畔に、その赤い体躯はあまりにも異物でした。
― 懸賞金と「怪物討伐隊」 ―
被害を重く見た農民たちは、1日がかりで首都レイキャヴィークへ代表を送り、当時のデンマーク総督に助けを求めます。
総督は討伐隊の派遣ではなく、「証拠を持ち帰った者に高額の懸賞金を与える」と発表しました。
湖畔は一気に色めき立ちます。
農民たちは射撃の名手を雇い、さらにプロの写真家まで呼び寄せました。氷の湖を背景に、怪物の姿を記録し、仕留める。近代的な討伐計画でした。
しかし怪物は姿を現しません。
― 暗闇の乱闘 ―
ある新月の夜。
2人の男が湖畔を逆方向から巡回していました。水音に耳を澄まし、怪物の浮上を待ち構えていたのです。
翌朝、2人は湖畔の流紋岩の岩場で傷だらけの状態で発見されます。
1人は両目の周囲が腫れ上がり、顎を骨折。もう1人の拳は皮膚が裂け、血で染まっていました。
彼らは「闇の中で怪物に襲われた」と主張しましたが、何に殴られ、何に蹴られたのかは見えなかったと認めています。
互いに数メートルの距離で倒れていたことから、仲間内では別の推測も囁かれました。
怪物はついに姿を見せぬまま、1か月が過ぎます。
射撃手は高額な請求書を提示し、農民側は支払いを拒否。騒動は裁判沙汰へ発展しました。写真家は静かに首都へ戻ります。
湖の水を抜く案も出ましたが、深すぎて断念されました。
― 地下水路の伝承 ―
地元では、カタネス湖は地下で海、あるいは山中のスコルラダルスヴァトン湖と繋がっていると語られています。
そして興味深いことに、そのスコルラダルスヴァトン湖でも怪物、スクリムスルの目撃談が残っています。
両湖は地理的にもそれほど離れておらず、地下水脈で結ばれているという説は古くから囁かれてきました。
確証はありません。
ですが、もし湖同士が繋がっているのなら、怪物が「消えた」のではなく「移動した」と考えることもできます。
現在、湖畔にあるのは静かな水面と羊の群れだけです。
怪物騒動は19世紀の出来事として記録に残るのみ。
ただし、隣の湖にまで同種の伝承があるという事実は、偶然にしては少し出来過ぎているようにも思えます。
[参照サイト]




0 件のコメント:
コメントを投稿