■300億円!悲劇の生身の猫兵器 ~ アコースティック・キティ
今回は、アコースティック・キティ(Acoustic Kitty)。
陰謀論でも都市伝説でもなく、冷戦期に実在したCIAの極秘計画です。
それは、人間ではなく「猫」を使って、会話を「盗聴」しようと試みました。
冷戦という名の偏執が、理性と倫理の境界を溶かしていた時代。
国家は、自然そのものを盗聴装置へと作り替えようとしました。
― 冷戦と盗聴技術 ―
1960年代。
アメリカとソ連は、互いの息遣いすら疑う情報戦の真っ只中にありました。
CIAはすでに、補聴器メーカーと協力し、極小マイクの開発に成功していました。
銃弾の内部に仕込んでも壊れない、頑丈で小型のマイクです。
しかし問題がありました。
音は拾えても、「意味」は拾えない。
雑音、風、足音、無関係な会話。
録音はノイズで溢れ、実用には耐えなかったのです。
そこで彼らは、奇妙な発想に辿り着きます。
「人間の声を、自然に聞き分けられる存在を使えばいい」
その答えが、猫でした。
― 猫という盗聴器 ―
元CIA職員ヴィクター・マルケッティによれば、猫は人間と同じく、内耳構造によって音を選別できる能力を持っています。
つまり、
「重要な会話に耳を向ける」
その行為自体が、すでに生体センサーなのです。
猫の耳は自由に動き、音の方向に向けられます。
マイクを耳の穴(外耳道)の入り口に設置すれば、猫がターゲットに注目するだけで、自動的にターゲットの声を集音できると考えたのです。
アコースティック・キティ計画では、猫の体内に装置が埋め込まれました。
猫は、比喩ではなく、文字通り「改造」されました。
腹部を切開し、電源パックを収めるための空間が作られます。
耳の奥には、音を拾うためのマイクが固定されました。
頭蓋の付け根には送信機が設置され、尾は自然な形を保ったまま、内部だけがアンテナとして使われます。
それらはすべて、「猫の動きや感覚を妨げてはならない」という条件のもとで行われました。
痛みを訴えさせないこと。
違和感を覚えさせないこと。
つまり、猫自身が、自分の体に起きた変化を“理解できない状態”が、理想とされたのです。
さらに、猫の脳には電極が接続されました。
空腹や発情といった衝動を検知し、必要であれば、それらを抑制するためです。
猫が立ち止まる理由。
猫が進路を変える理由。
それらはすべて、「任務の妨げ」として管理対象になりました。
猫は、自由に歩いているように見えながら、その判断の一部を、すでに自分のものではなくしていたのです。
この計画で求められたのは、「機械のように正確で、猫のように自然な存在」でした。
それは、生き物としては成立しない矛盾です。
にもかかわらず、国家はそれを成立させようとしました。
成功すれば、倫理は問題にならない。
失敗すれば、記録から消せばいい。
そういう時代でした。
― 最初で最後の実戦 ―
長い訓練の末、猫は人間の会話に耳を向けるようになります。
そして、最初の実戦。
舞台はワシントンDC。
ソ連大使館近くの公園で、ベンチに座る2人の男。
CIAのバンから、猫は解き放たれます。
道路を渡り、標的の近くへ向かうはずでした。
その瞬間。
タクシーが現れ、猫を轢きました。
マルケッティは後に語っています。
「2,500万ドルが、一瞬で消えた」
2026年換算で、約2億ドル(約300億円)――
国家規模の狂気が、アスファルトの上に散りました。
ただし、この結末には異説もあります。
後年、技術部門責任者ロバート・ウォレスは、
「猫は回収され、装置は取り除かれ、その後は普通の生活を送った」
と述べています。
アコースティック・キティに関するCIA文書は、2001年に機密解除されました。
しかし、その多くは黒く塗り潰されています。
真実は、黒塗りの向こうにあります。
そこには、成功率や技術的課題だけでなく、どこまで「猫を猫として扱っていたのか」という記録も、含まれていたはずです。
アコースティック・キティ計画は失敗に終わりました。
結論は短い一文で締められていました。
「実用的ではない」
猫は、猫であり続けた、ただそれだけでした。
[参照サイト]
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