■【日本限定】戦乱の平原に立ち上がった奇獣 ~ ペシャクパラング
今回はペシャク・パラング(Peshak Palang/گربه پلنگ)。
ダリー語でペシャクは「ネコ」、パラングは「ヒョウ」を意味するこの名は、現地では、本来ベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)を指す一般的な呼称です。
しかし2002~2003年頃、アフガニスタンの首都カブールの北に位置するショマリ平原(Shomali Plain)で、この名は「未知の怪獣」を意味する恐怖の呼称へと変貌しました。
― 日本にしか詳細が残らないUMA ―
この事件は奇妙な伝播経路をたどっています。
現地で死骸を撮影したのは日本人ジャーナリスト安田氏。
その情報を受け、2007年5月25日から6月4日にかけて現地調査を行ったのがノンフィクション作家・高野秀行氏でした。
つまり、アフガニスタン以外でこの怪物の詳細が語られているのは、ほぼ日本のみという極めて特異なUMAなのです。
― キツネか、犬か、幼いライオンか ―
目撃証言は一貫していません。
キツネのようでもあり、犬のようでもあり、ネコ、あるいはライオンの幼獣にも似ていたといいます。
小型ながら吻(鼻先)は長く、口を開けば鋭い歯列がのぞき、前肢には硬質な鉤爪。
尾は長く、しなやかで、砂塵の上に細い線を引くように揺れていたと語られます。
通常は四足歩行。
しかし興奮すると後肢と尾で体を支え、背を弓なりに丸めて直立する。
その姿は「闘うために立ち上がった獣」だったと証言されています。
咬傷による被害は40人以上。
1~2名の死者が出たともいわれ、ショマリ平原は一時騒然となりました。
― モスク前の直立怪物 ―
2002年10~11月のある夜。
モスクで祈っていたアジズという男性が「ペシャク・パラングだ!」という叫び声を聞き外へ出ると、50~60人の群衆の視線の先に奇妙な獣がいました。
犬とネコを混ぜたような体躯。
尾と後肢で立ち上がり、背を丸めて威嚇。
ざわめきが膨れ上がると、怪物は跳躍し、闇へと消えたといいます。
同年、夜間パトロール中の警察官が約1キロ離れた地点でその獣を発見し発砲。
翌朝、近くの家の軒先に「ライオンの幼獣に似た死骸」が吊るされているのが見つかりました。
警察は昨夜撃った個体だと判断し埋葬。
のちに安田氏の提案で掘り起こし、写真を撮影しています。
乾いた皮膚、細長い口吻、まだ幼さを残す体躯。
それは確かに「何か」でした。
― 生物か、誤認か、あるいは恐怖の産物か ―
高野氏の現地調査によれば、ペシャク・パラングは単一種を指す言葉ではありませんでした。
騒動の正体は、狂犬病に感染したイヌ科動物、あるいは大型のマングースである可能性が高いと結論づけられています。
実際、尾を支えに立ち上がる威嚇姿勢はマングース類に見られる動作です。
しかしその正体がいずれにしても、「40人以上が襲われた」とされる規模に対し、死者が1~2名にとどまったという数字には、拭いきれない違和感が残ります。
狂犬病は発症すれば致死率ほぼ100%。当時の壊滅的な医療体制下で、40名全員が迅速にワクチンを接種できたとは考えにくく、犯人がすべて狂犬病個体であったなら、ショマリ平原は文字通りの地獄と化していたはずです。
ここに、この怪物の正体を解く鍵があります。
実際に起きた数件の咬傷事件が、人々の恐怖心と米軍への不信感という触媒を得て、ひとつの巨大な「ペシャク・パラング伝説」へと増殖していったのではないでしょうか。
一方で現地では「米軍が夜間に怪物を放った」という噂も囁かれていました。
つまりは陰謀論。
米軍によって秘密裏に遺伝子操作された生物、それこそがペシャク・パラングだという説です。
戦乱という極限状態のなか、不安と疑念は容易に形を持ちます。
銃声、夜の遠吠え、正体不明の影。
それらが結びついたとき、ひとつの獣は怪獣へと昇格するのです。
ペシャク・パラング。
それは未知の新種だったのかもしれません。
あるいは、戦争が生んだ集合的幻影だったのかもしれません。
乾いたショマリ平原の夜風のなかで立ち上がったその影は、いまも生物学と噂話の境界線に、静かに佇んでいるように思えます。
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