■学校に現れた黒い小人 ~ ボツワナ・ツィディ(セクション1)
今回はボツワナ・ツィディ(Botswana Tsidi)。
2013年、アフリカ南部のボツワナ共和国で、学校に通う大勢の児童が「黒い毛むくじゃらの人型生物を見た」と訴え、学校全体がパニックに包まれたという奇妙な事件です。
目撃されたのは、人間よりも小柄で、全身が黒い毛に覆われたような存在。
しかも、単独の目撃談ではありませんでした。
ひとりの児童が怪物を見たと叫ぶと、その恐怖は周囲の児童へ次々と伝わり、やがて複数のクラスを巻き込む騒ぎへと発展します。
一体、子供たちは何を見たのでしょうか。
そして、本当にそこには「何か」がいたのでしょうか。
― マウンの学校に現れた黒い影 ―
事件が起きたのは、2013年5月。
舞台となったのは、ボツワナ北西部の都市マウン(Maun)にあるマティバ小学校(Mathiba Primary School)です。
マウンは、世界最大級の内陸デルタとして知られるオカバンゴ・デルタ(Okavango Delta)への玄関口でもあります。
街の周辺にはゾウやライオンをはじめとする多くの野生動物が生息しており、都市と巨大な自然環境が隣り合う土地です。
そんな場所にある学校で、昼頃、奇妙な騒ぎが起こりました。
児童たちが「黒い毛皮に覆われた、人間のような生物を見た」と訴え始めたのです。
目撃された(とされる)生物は、人間よりも小柄で、全身が毛に覆われたような姿だったといいます。
最初は数人の児童による目撃だったものが、やがて周囲へ広がっていきました。
そして、ここから事件は単なる「怪物の目撃談」では済まなくなります。
― 学校を襲ったパニック ―
児童たちは怪物を恐れて逃げ始め、学校内は大混乱となりました。
悲鳴を上げる子供が相次ぎ、中には失神する者も現れたといいます。
最終的には複数の児童が診療所へ運ばれる事態となり、学校側は授業を続けることが困難になって、児童を帰宅させる措置を取りました。
一方、教師たちは怪物そのものを確認できなかったといいます。
ここは、この事件を考えるうえで重要な部分です。
「大勢の人間が怪物を見た」のではなく、児童たちの間で怪物の目撃情報と恐怖が急速に広がり、その結果として大規模なパニックが発生したと考えることもできるからです。
当時の報道では、最終的に10人の児童が診療所へ運ばれたとされています。
では、なぜこれほど大きな騒ぎになったのでしょうか。
その背景には、事件が起きた時期も関係していたと考えられています。
― 「試験」が迫っていた子供たち ―
当時の児童たちが置かれていた状況を知ると、この事件は少し違って見えてきます。
ボツワナの初等教育では、7年生(Standard 7)が初等教育の最終学年にあたります。
そして、この学年の児童たちは、卒業や次の進学に関わる重要な全国試験、PSLE(Primary School Leaving Examination)を控えていました。
事件が起きたのは5月。
試験を目前に控えた児童たちには、強い緊張や不安がかかっていたと考えられています。
当時の教育当局もこの点に注目しました。
教育技能開発省の地域局長アクロ・マセコ(Acro Maseko)氏らは、試験前のストレスや不安が、今回の騒ぎを引き起こした可能性を指摘しています。
そして学校には、児童たちへのカウンセリングなどの対応が取られることになりました。
つまり、当局が最初から「未知の生物が学校に侵入した」と考えたわけではありません。
むしろ、児童たちの心理状態と、恐怖が集団の中で急速に広がったことに注目したのです。
ただし、ここから「だから全員が幻覚を見た」と断定することもできません。
個々の児童が何を見たのか、最初の目撃が何だったのかについて、現在確認できる情報は限られています。
だからこそ、この事件は単純な集団幻覚として片付けるより、ひとつの目撃情報が集団の恐怖へ変化していく過程として見ると興味深いのです。
― インドにも現れた「黒い人影」 ―
実は、この事件によく似たUMA騒動が、別の大陸でも起きています。
2001年、インドの首都ニューデリーを中心に、「モンキーマン(Monkey Man)」と呼ばれる謎の怪物の噂が広がりました。
こちらも、人間より小柄で、黒い毛に覆われたサルのような姿をしているとされました。
目撃者によって細かな特徴は異なりますが、黒い毛、二足歩行する人型の存在、夜間に突然現れるというイメージなどが繰り返し語られています。
そして、モンキーマン騒動でも、怪物そのものより大きな問題になったのが、人々のパニックでした。
怪物に襲われることを恐れた人々が逃げ出し、屋根から転落するなどして死者や負傷者が出る騒ぎにまで発展しています。
当時のインドでも、猛暑や停電、睡眠不足などによる厳しい生活環境が、恐怖の拡大に影響した可能性が指摘されました。
つまり、
「何かを見た」
↓
「怪物らしい」
↓
「怪物が襲ってくる」
↓
「自分も襲われるかもしれない」
という情報の変化が、人々の恐怖をさらに膨らませていった可能性があります。
ボツワナ・ツィディとモンキーマンは、発生した国も時代も違います。
それでも、小柄で黒く毛深い人型の怪物というイメージが広がり、強い不安を抱えた人々の間でパニックが拡大したという点では、よく似ています。
― ボツワナにいた「小さな怪物」 ―
しかし、ここでさらに興味深いのが、ボツワナを含む南部アフリカには、昔から「小さな人型の怪異」にまつわる伝承が存在することです。
その代表的な存在のひとつが、ティコロシェ/トコロシェ(Tokoloshe)です。
トコロシェは、南部アフリカの複数の文化圏で語られてきた超自然的存在で、地域や伝承によって姿や性質には違いがあります。
小柄な人型の存在として描かれることもあり、人間に害を与える邪悪な存在として恐れられてきました。
そのため、マウン周辺の人々の中には、今回の騒動を単純な心理現象としてではなく、トコロシェのような伝統的な怪異と結びつけて考える者もいたとされています。
学校で起きた出来事に対し、近代的な心理学と伝統的な信仰が、それぞれ異なる説明を与えたわけです。
一方は、
「強いストレスと恐怖が集団の中で連鎖した」
という説明。
もう一方は、
「何か超自然的な存在が現れた」
という説明です。
そして、この二つは必ずしも単純に対立するものでもありません。
怪物を実際に見たのかどうかとは別に、そこに暮らす人々が「恐ろしいものが現れた」と感じる文化的背景があれば、その恐怖はさらに強くなるからです。
セクション2へ続く。
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