2026年6月30日火曜日

海底を走る謎の巨大列車 ~ トレイン(シー・トレイン)


■海底を走る謎の巨大列車 ~ トレイン(シー・トレイン)

今回はリクエストいただいていた、謎のサウンドシリーズ、トレイン(Train)。

1997年3月1日、NOAA(アメリカ海洋大気庁)のハイドロフォン(水中聴音機)アレイによって観測された「海の咆哮」です。

後にシー・トレイン(Sea Train)と呼ばれることになりますが、当初は単にトレインと呼ばれていました。

― 海の列車 ―


ゴオオオオオオォォォォォ……(キィィィィィィィン……)

「海の列車」といえど、その名から想起されるような、列車が目の前を高速で通り過ぎるドップラー効果のような大きなピッチの変動はありません。

それは、はるか遠くを長い貨物列車が警笛を鳴らしながら走っているような、不思議なサウンドです。

トレインがトレインと呼ばれる所以でもあります。

この音は、赤道付近の太平洋に設置されたNOAAの水中ハイドロフォンによって記録されました。

特徴は、一定間隔で並ぶ音が時間の経過とともにゆっくり周波数を上げていくこと。

まるで巨大な列車が深海を走り続けているような規則正しいリズムを持っていました。

― トレインの音の起源 ―


この音の正体について、現在もっとも有力とされているのは氷山起源説です。

巨大な氷山が海流に流され、海底の地形に引っかかりながら削る際や、氷山同士が衝突することで発生する「氷震(アイスクェイク)」が、数千キロメートルもの距離を伝播したものと考えられています。NOAAの研究でも、この説がもっとも妥当とされています。

しかし、初めてこの音が公開された当時は、まだ詳細な解析結果が十分に知られておらず、多くのUMAファンやオカルトファンの想像力を大いに刺激しました。

― 謎の巨大生物 ―


ブループジュリア(ユリア)がそうであったように、トレインにもその起源を生物とする説があります。

もし生物起源であるならば、その発する音量から考えて、シロナガスクジラをはるかに凌ぐ、とてつもない巨体を持つ深海生物である必要があります。

しかし、その規則正しい音の変化は、生物というより機械のようにも感じられます。

そこで一部では、有機物と無機物が融合したような巨大生命体ではないかというロマンあふれる説まで語られました。

巨大なジェット推進器官を備え、まるで原子力潜水艦のように深海を巡航する「生体潜水艦」。

その駆動音こそが、トレインなのではないかというのです。

当時は「潜水艦乗組員が巨大な影と、この音を同時に観測した」という真偽不明の都市伝説まで生まれ、深海を巡る怪物譚の一つとなりました。

― 南極の巨人とクトゥルフ ―


やがて日本では、2ちゃんねる発祥の都市伝説「南極のニンゲン」と結び付ける人も現れました。

全身が真っ白で、数十メートルどころか数百、数千メートルにも達すると語られた謎の巨大生命体。

南極の氷の下を移動する巨大怪物が発する音が、トレインではないかという説です(観測地は太平洋ですが、その巨大さから遠方の怪物を連想するファンも少なくありませんでした)。

さらに海外では、H・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話とも結び付けられました。

南太平洋の海底都市ルルイエで眠る邪神クトゥルフ

その寝息、あるいは目覚めの歌をハイドロフォンが偶然拾ってしまった――そんな怪奇小説さながらの解釈も、当時のオカルト掲示板を賑わせました。

中には、地球空洞説と結び付け、深海の底に存在する地底世界アガルタへの巨大ゲートが開閉する音や、超古代文明が操る地下列車の駆動音だとする説まで現れました。

科学とは無縁ですが、未知の音が人々の想像力をどこまでも膨らませた好例と言えるでしょう。

― 現在のトレイン ―


もちろん、生物説には大きな問題もあります。

トレインはブループと同様、数千キロメートル離れた複数のハイドロフォンで同時に観測されるほど強力な音でした。

もし生物が発しているのであれば、その体格はシロナガスクジラの数倍から十数倍にも達し、生物学的には極めて考えにくい存在になります。

現在では氷山起源説が有力となっていますが、それでもなお、トレインは世界中のUMAファンに愛され続けています。

海外のCryptidWikiやFandomなどでは、「Sea Train」としてキャラクター化され、ファンコミュニティによって冗談めかしてAquaticus vehiculum(水中の乗り物)」という学名が与えられるなど、ブループやジュリアと並ぶ「NOAA怪獣」の一体として語られるようになりました。

結局のところ、トレインの正体は巨大な氷山が生み出した自然現象なのでしょう。

しかし、もしあの規則正しい汽笛のような音が、本当に誰も見たことのない深海の巨人が発していたのだとしたら――

海底のどこかでは、今日も人知れず巨大な「列車」が静かに走り続けているのかもしれません。

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